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12月 裸木となりて巣箱を残しけり カーテンの寸法測る神の留守 啼き交はす大白鳥の胸高し 日向ぼこ眼鏡の奥で睡りけり 冬服や両手で包むロシアンティ 11月 行く秋や焦げ跡ありし土器の底 列車過ぐ冬満月に触れながら 楼門は往時のままよ楝の実 小鳥来る待合室にちひろの絵 しぐるるや神木の幣新しく 10月 跳箱を一段足せば小鳥来る 月光裡ボトルに浮かぶ帆前船 秋天の真下で車輌切り放す 曼珠沙華振り向くことを許さずに 芋名月添へてありしよ利休箸 サイフォンの逆流見つめ生身魂 向日葵やホームランボール見失ふ ゴーギャン展観てより柘榴裂け始む 無花果に似合ふ器の見当たらず 8月 弁当と花火を買うて女子高生 郵便受覗き蜥蜴を驚かす 梅雨の月真上のあらば歪みけり 夕虹や幼を高く抱き上ぐる 通されて籐椅子軋む兄の部屋 7月 黒板の文字美しき半夏生 屋上に稲荷祀られ月涼し 八の字にくぐる茅の輪や暮れ残る 植え足して青田の水を濁しけり ほうたる来い返さぬままに兄の本 真打の肩より滑る夏羽織 白シャツを羽化するごとく脱ぎにけり あめんぼの水の盲点突きにけり
万緑やペットボトルの中に空 蚕豆や指に冷たき莢の棉 つくばひに五月の空の溢れさう 菖蒲湯の葉の切つ先より匂ふ 夏鴨の番に一羽つき纏ふ 間違へし順路の奥に著莪の花 シーソーの片方軽し鳥雲に 画布抱へミモザの前を通りけり 春愁や紅茶を計る砂時計 恋猫の声の終ひは柔らかし
春禽の一巡りして着水す 雛の客折畳み傘忘れけり 春昼やふんはり掴む削り節 草餅の黄な粉を払ひお開きに 三月やポケットにある紅茶飴 春愁や紐の下がりし蛍光灯
啼くたびに胸を反らすや寒鴉 凍星や鞄の底に沈む鍵 籾殻の零れてゐたり寒卵 校庭の白梅低く広がりぬ 立春や足元に来て猫の伸び
五指広げ革手袋を馴染ませる 数へ日や本積み上げし独身寮 抽斗に鈴の転がる初鏡 金泥の丑一文字の賀状かな 冬の灯を零して列車すれ違ふ
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