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12月 非常口 映るもの皆銀色に冬の川 ふんはりと藁積まれたる冬田かな 非常口落葉溜りとなつてをり 一人夜の鍋焼うどん噴きこぼる 湾のぞむ黒酢の里の冬ダリア 11月 箱階段 風呂敷で包む書類や黄落期 真間の井の桶の朽ちゐて秋深む 秋潜む箱階段の途中まで 白萩に日照雨すぎゆく和紙の里 麦笛 練習の民族打楽器さへ秋思 今剥きし林檎の匂ふ喫茶店 間引菜を洗へば水の重さかな ラジオよりハーブの講座台風来 鳴くことに飽きてしまひぬ昼の虫 烟吐くやうに開きぬ藤袴 萩の径獣道へと続きけり 魚河岸の三和土を弾く秋の水9月 夏牡蠣 かなかなやすぐ折り返す渡し船 夏牡蠣を啜る潮を滴らせ 風なき日ひそと開きぬ花茗荷 酢橘貰ふ寺の縁起を尋ねれば 凌霄花に重たき風の日暮かな 大玻璃に色をこぼして小鳥来る 8月 月舟の句碑 柔らかき草に交じるも夏薊 杉箸のさつくり割れて涼しかり 近寄れば向日葵の顔大き過ぎ 威勢よき夜店の文字の右上がり 梔子の甘き香りのまま錆びる 月舟の句碑をなぞりて夏深し 7月 波の跡 ででむしの殻に残りし波の跡 蛍の一つ灯れば教へたき 紫陽花に濡れて行きしよ検針員 墨の香の小筆に残る半夏雨 百合重し花粉を衿に付けぬやう 何が好いと云ひつつ鰻買ひにけり 子雀の日差しを連れてぞろぞろと 待つてゐて若葉影降る文庫本 対岸の葭よりかすむ走り梅雨 明日開く芍薬に向く文机 瞬きをゆつくりしたる青蛙 5月 老鶯 老鶯の誘ひに乗らず戻りけり 手話の手の一瞬止まる花吹雪 花遍路憩へる時も杖を抱き 幼ナの手いつせいに伸ぶ花御堂 追ひかけて鍵渡したる蝶の昼 少年と会釈交さば夏兆す4月 雀鳴く みな濡れてことさら昏き花馬酔木 春満月プリンを二つ提げ帰る 貨物車の振れは花芽に届きけり 雀鳴く薺の花に触れながら 天網を抜け白れんの夥し しゃぼん玉空を映して毀れけり 春白鳥 金泥の曼陀羅図より蝶生るる 花種の袋を振れば風の音 春白鳥の頸の汚れをいとほしむ ものの芽に激しき風のありにけり 見つめても眼合はせぬ雛かな 借畑の豌豆の花立ち上がる 2月 浅春 瑠璃色の鳩の飛び立つ二月かな 缶コーヒー手渡す人の息白し 冬鳥の啼き交はす沼暮れ行けり ローマ字で書きたる日記受験生 菜の花を足して花束作りけり 浅春の小石を蹴れば軽き音 1月 砂糖菓子 握手して帰る極月の見舞ひ客 マジシャンの養成講座十二月 銀杏散る光の中のロダン像 洗ひ場に零れてをりぬ実千両 茶の花の蕊に夕日をとどめけり 砂糖菓子の零るるノート十二月
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